FP(ファイナンシャルプランナー)の岩崎(@kurashilog)です。
職場でこんなコトバを耳にしたことありませんか?


「せっかく残業したのに損してる気がする…」とか、「なんとかしてこの社会保険料、下げらんないかな…」と思いますよね。
というわけで今回は
- 上がった社会保険料の下げ方
- 社会保険料が上がった場合、本当に損なの?
- どういう仕組みになってるの?
について書いていきます。
- 上がった社会保険料は『随時改定』で下げられる
- 年間11万円の社会保険料増→年金で取り戻すには27年かかる
- それでも結局『損』ではない
- 別のことを考えよう

クリックできる目次
上がった社会保険料は「随時改定」で下げられる


- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 介護保険料
- 雇用保険料
- 労災保険料
それぞれの解説はここでは省略。
負担感の大きいものは「健康保険料」と「厚生年金保険料」ですね。
毎月毎月、結構取られてる!って思いませんか?ちょっと過去2〜3ヶ月分くらいの給与明細をひっぱり出してみましょう。
すると「健康保険料」や「厚生年金保険料」って毎月同じ額だとわかります。
残業代が多い月でも、少ない月でも同じ額。
所得税みたいに収入に連動しないんです。




この標準報酬月額に、一定の利率をかけ算すると、健康保険料や厚生年金保険料が決まるんですよ。
ちなみに、雇用保険料と労災保険料には標準報酬月額は関係ありません。
標準報酬月額の決まりかた
標準報酬月額は毎月の給料額に応じて、そのつど計算されるわけではありません。
「あなたのひと月あたりの報酬はこの額ね」と決められてしまいます。
そして、標準報酬月額には「等級」というランクがあり、等級ごとに額が決まっています。
- 健康保険料:1〜50等級まで
- 厚生年金保険料:1〜31等級まで

細かく知る必要はありませんよ〜。
- (4月分の報酬+5月分の報酬+6月分の報酬)÷3で、「報酬月額」が決まる。
- 「報酬月額」に応じて「等級」が決まる。
- 「等級」に応じて「標準報酬月額」が決まる。
- 決まった「標準報酬月額」はその年の9月〜翌8月まで原則固定。

ちょっと待って「報酬」ってなに?給料とはちがうのか?

これまた細かい話になっちゃうのでざっくりといきましょう。
報酬には残業代も含まれる
- 基本給
- 各種手当(通勤手当、残業手当、住宅手当、家族手当などなど)
- 年4回以上の賞与
通勤手当に相当する定期券なども報酬に含まれます。

簡単にいうと、毎月もらってるものはほとんど報酬として見るぜ!ってことです。




これで冒頭の「3月〜5月の残業は損」の理由が判りますね。
「報酬」には残業手当も含まれるんでした。
つまり
「3月〜5月に残業しまくる」
↓
「4月〜6月にもらう残業代が増える」
↓
「その年の9月〜翌8月の標準報酬月額が上がる」
↓
「その年の9月〜翌8月の健康保険料や厚生年金保険料が上がる(手取が下がる)」
というプロセスを経て、冒頭の「3〜5月の残業は損」という話になるんですね。
(残業手当が翌月支給の場合)
上がった社会保険料の下げ方

- 資格取得時
入社時など - 定時決定
上に書いたように、3〜5月分で決まるもの - 随時改定
報酬に著しい変動があった場合
通常、定時改定された標準報酬月額は、9月〜翌8月まで固定です。
そのまま何事もなければ、また次の4〜6月の報酬をもとに定時決定され、これをずっと繰り返します。
でも、3の「随時改定」のパターンの場合は、次の定時決定を待つことなく変わります。


随時改定されるパターン2つ
随時改定される代表的パターンを見てみましょう。
(例外もありますが、ここでは省略。)
標準報酬月額が上がる場合
- 昇給等で固定的賃金がUP↑
- 固定的賃金UP月から、3か月間で算出した標準報酬月額が、これまでの標準報酬月額よりも2等級以上UP↑
- 3か月とも支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)

この3つの条件を満たした場合、固定的賃金UP月を含めて数えて4か月目に改定(減額)されます。
例1)10月に昇給→10〜12月で算出した標準報酬月額がこれまでよりも2等級以上UP→1月から改定(増額)
例2)10月に昇給→10〜12月で算出した標準報酬月額がこれまでよりも2等級以上DOWN→随時改定されない
標準報酬月額が下がる場合
- 降給等で固定的賃金がDOWN↓
- 固定的賃金DOWN月から、3か月間で算出した標準報酬月額が、これまでの標準報酬月額よりも2等級以上DOWN↓
- 3か月とも支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)

この3つの条件を満たした場合、固定的賃金DOWN月を含めて数えて4か月目に改定(減額)されます。
例1)10月に降給→10〜12月で算出した標準報酬月額がこれまでよりも2等級以上DOWN→1月から改定(減額)
例2)10月に降給→10〜12月で算出した標準報酬月額がこれまでよりも2等級以上UP→随時改定されない
固定的賃金には何が含まれるの?
DOWN(固定的賃金)→DOWN(標準報酬月額2等級以上)パターンに当てはまれば社会保険料は下がります。
つまり、固定的賃金を下げて、更にそこから3か月間の報酬月額を下げればOKということ。

月給、週給、日給、役付手当、家族手当、住宅手当、勤務地手当、通勤手当など
固定的賃金ではないもの
残業手当、宿直手当、皆勤手当、休職給など

なので、こんなことが考えられます。
- 4〜6月分の残業代がめちゃくちゃ多く、9月から標準報酬月額&社会保険料がドカッと増えた
- 7〜9月分はまったく残業代がないけど、固定的賃金は下がってないので社会保険料はそのまま


上がった社会保険料が実際に下がった話
「固定的賃金」を下げて、さらに「標準報酬月額」も2等級下げなければならないのでちょっとハードルが高いですよね。
ぼくは転居で通勤手当(固定的賃金)が下がり、その後3か月たまたま残業代が少なかったため、随時改定されて社会保険料が下がった経験があります。
でも、狙って下げに行くのはあまり現実的ではないでしょう。
ここで考えてみたいのは「そもそも、社会保険料が上がることってそんなに損なの?」ということです。
社会保険料(標準報酬月額)が高い場合のメリット・デメリット

《想定ケース》
標準報酬 | 健康保険料 | 厚生年金 | |
---|---|---|---|
増額前 | 18万円 | 10,404円 | 16,364円 |
増額後 | 24万円 | 13,872円 | 21,818円 |
標準報酬月額は6万円up、健康保険+厚生年金でひと月あたり約9,000円up、年間で約11万円の負担増。

それでは、健康保険、厚生年金それぞれの場合に分けて考えてみましょう。
メリット:健康保険
健康保険から給付されるものには、「傷病手当金」や「出産手当金」などがあります。
これらの額の計算には標準報酬月額が使われるので、標準報酬月額が高ければ手当金額も上がる仕組みになってます。
では、想定ケースの場合の傷病手当金額はどうなるのか。
(12ヶ月間、それぞれの標準報酬月額が続いたものとして計算。)
・増額前…4,000円
・増額後…5,333円
差額は約1,300円(日額)
傷病手当金は最長1年6か月もらえるので、フルで受給した場合の差額は70万円を超えてきます。
なお、出産手当金も同額として産前産後98日分を受給すれば、その差額は約13万円。

デメリット:健康保険
メリットの裏返しなんですが、給付金がもらえない場合は保険料だけが増えてしまうことに。
保険料をたくさん払ったからといって、医療費の自己負担が減るわけではないですからね。
メリット:厚生年金
年金制度はとても複雑です。
どれくらい複雑かというと、社会保険労務士という専門家もいるくらいには複雑。

想定ケースに当てはめると…
・増額前
18万円×0.55%× 12か月=1.2万円
・増額後
24万円×0.55%×12か月=1.6万円
差額は約4,000円。年額です。
社会保険料は年間で約11万円の負担増(健康保険料含む)でしたね。

なので、元を取るのに27年以上!かかります。



デメリット:厚生年金


上がった社会保険料を下げる労力は無駄
ここまで、「社会保険料の下げ方」や「社会保険料が上がった場合のメリット&デメリット」を考えてきました。







「年間54万円の損!FPが家を決める時のたった一つのルール」という記事(クリックで読めます)でも紹介してますが、時間はとっても貴重な資源なので有効に利用しましょう。
残業手当が増えた事を忘れてしまう
社会保険料が上がるほど残業したのであれば、その分残業手当で収入が増えてるはず。
想定ケースだと、6万円×3か月=18万円程度の増(税金は考慮せず)。
社会保険料の年間負担増額11万円と比べても残業手当の方が多い。
それに加えて傷病手当金や出産手当金や年金が増えるし、少なくとも「損」ではないですよね。
それでも社会保険料が増えた明細を見たとたん、過去の残業代の事は宇宙の彼方に飛んで行き、 損した気分になってしまいがち。
そうなるのは仕方ありません。普通のことです。
人間は利益よりも損失に対してナイーブな生き物ですから。
ただ、数字で見ると「マイナスにはなっていない」という事も知っておくと良いかもしれません。
《2017年10月5日追記》
所得税・住民税について考慮されていないとのコメントをいただきました。
すっかり抜け落ちていましたね、申し訳ありません。
所得税10%、住民税10%として考えると、18万円×20%=3.6万円がざっくりと税負担増になりますので、社会保険料増額とあわせると15万弱に…
しんどい思いをしてこれでは割にあわないという印象です。住民税なんて翌年課税ですから感覚的に尾を引きますよね。
コメントをくださった方のように、半端じゃない時間の残業をこなされていた場合、残業代もグンと多くなりますので所得税率が上がる可能性もあります。
月60時間を超えた場合の残業単価は1.5倍(20%増)になるので、想定ケースとの単純比較はできませんが、残業による肉体的・精神的負担も考えるとやはりつらいものがありますよね…
ぼくも1ヶ月の残業が160時間を超えたことがありますが、その月は日を追うごとに神経がささくれだっていったことをよく覚えています。


その頃に書いた「親愛なる”定時で帰りづらい”と悩めるみなさまへ/それ、幻想だから大丈夫です。」という記事(クリックで読めます)がありますので、本題からはそれますが興味のある方は読んでみてください。
《追記ここまで》
現実的で良コスパの収支見直し法
もしも増えた残業手当を浪費してしまったり、減った手取りを嘆いている方には、まずは家計管理の見直しをオススメします。

具体的な方法については別記事にしてますので、ぜひお読みください。

まとめ
それではあらためて今回の記事のまとめです。
- 上がった社会保険料は『随時改定』で下げられる
- 年間11万円の社会保険料増→年金で取り戻すには27年かかる
- それでも結局『損』ではない
- 別のことを考えよう

追伸!あなたがもし公務員ならの情報が役立つのでチェックしてみてくださいね。
あなたにオススメの記事






私はリーダとしてプロジェクトを何とか終わらせようと、3~5月の残業を毎月150時間以上やって、精神もボロボロになりました。
当然、散財し、チームメンバーのやる気を維持するために飲食をおごり、残業代の多くが何かしらに消えました。
>それでも社会保険料が増えた明細を見たとたん、過去の残業代の事は宇宙の彼方に飛んで行き、 損した気分になってしまいがち。
>人間は利益よりも損失に対してナイーブな生き物なので仕方ないのですが、数字で見ると「マイナスにはなっていない」という事を>知っておくと良いでしょう。
そうですね、人間ってナイーブですね…
かなりのいら立ちを覚えました。
上記の経験は5年前ですが、未だに、思い出すと身震いします。
そのあと、社会保険料増額のため、毎月の生活費が5万円の赤字で、所得税、住民税もアップして。
という数字までふくめてないですよね…
すみません。思わず書き込んでしまいました。
コメントありがとうございます!記事本文にご指摘の内容を追記しました。
3ヶ月連続で150時間超えの残業とは…ほんとうに強烈で過酷なご経験ですね…
ぼくは1ヶ月の160時間残業で冗談抜きに「これは死ぬ」と思いましたので、あれが3ヶ月続くなんて…想像を絶します。
それだけの残業をこなされていた場合、社会保険料増額もかなりのものだったでしょうし、なにより肉体・精神がもたないですよね。
5年前とのことなので、現在は落ち着かれていると良いのですが…くれぐれもお身体ご自愛ください。
素人が横から申し訳ないですが、27年かかるってとこの話ですけど、年金て年6回12ヶ月分でますよね。
差額って年間計算ですか?月じゃないでしょうか?
なまなまさん
コメントありがとうございます!
差額は年間計算です。
おっしゃるとおり、年金は年6回、偶数月に2ヶ月分が支給されます。年間の年金額が120万円だったら、偶数月に20万円もらえるということですね(税金については省略してます)。
記事中の増額前のシミュレーションでは、年額が1.2万円なので、1.2万円÷12=1,000円が1ヶ月分になります。
「厚生年金に1年だけ加入した場合、どれくらい年金がもらえる(増える)か」というシミュレーションだと考えていただければと思います。
7月で定年退職なのに3月から今月の6月まで残業量が多くかなりです。
8月から嘱託社員になり給料も半額以下になるのに高い標準報酬額で計算された額の支払なのでしょうか?
針谷さま
コメントありがとうございます。定年後の社会保険料にお悩みなのですね。
60歳以降に退職&そのまま継続して同じ会社で再雇用された場合は、新しい給料で計算された額になります。
具体的には、会社(事業主)が「資格喪失届」と「取得届」を日本年金機構へ提出します。
ご心配でしたら、針谷さまの会社の総務部署へ一度ご確認いただくのが良いかと思います。